読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

愛してくれてマジ感謝

フィギュアレビュー、本・漫画の感想など

元少年A『絶歌』

エッセイ 元少年A ☆☆☆

絶歌

絶歌

 元少年A『絶歌』のレビューです。
 ぼくはこの本が出ることを知らなかった。でもネットで批判者たちがわーわー騒いでたので知ってしまった。そしたらもう買うしかないよね。「買うべきではない!」とか批判してるひとたちはちょっと思慮が浅いと思う。批判が盛り上がってしまったせいでこの本を知ったひとってたくさんいると思うよ。
 でもそういう批判者たちにありがとうっていいたい。この本は読まれるべき本だと思った。ブログネタのつもりで買ったんだけど、予想に反してすごくいい本だった。すくなくとも薄っぺらな新書やしょうもないキャラクター小説なんかよりずっと価値がある。ぼくはそう思った。まあこれで金儲けするのはどうかと思うけど。
 酒鬼薔薇先生は小説家になりたいなら実名でやったらいいんじゃないかな。そういう意味では覚悟が足りない。ぼくは酒鬼薔薇先生が小説書いたら読みたいよ。「小説家になろう」に投稿すればいいじゃん。なろうで小説書こうよ!

 帯付きだとこんな感じ↓


 帯をはずすと↓


 カバーをはずすと↓


 白いカバーをはずすと黒い表紙が現れる。浄化された真っ白な卵の殻のなかにいまだ心の闇が残ってるって感じの意図なのか、あるいは仮面をかぶってでも懺悔の人生を歩み続けるという意思表示なんだろうか。あるいは被害者の冥福を祈るという意味?


 この作品はエッセイだと思うけど、かなり小説っぽい、というかほとんど小説。酒鬼薔薇先生も小説がお好きのよう。三島由紀夫村上春樹が好きらしい。比喩表現がすごく多い。面白いものから陳腐なものまでいろいろある。ぼくはこの文体に共感できた。自分を見ているようだ。
 酒鬼薔薇先生がこういう文体で書くのにはわけがあると思う。とくに第一部の文体が比喩だらけになっているのだけど、たぶんそれだけ自分のなかで当時の現実を掴み取ろうと苦労してるってことだと思う。すっきりしたことばで淡々と語れるものではないってことだろう。分析すればするほど現実は複雑性を増して、文体は膨れ上がり爆発してしまう。



 この本の問題点としてこれを書いてるのが本人かどうかわからないってこと。確認しようがない。ゴーストライターやなりすましが書いてても全然不思議じゃない。このどうしようもない幼稚さはやっぱり本人なのかなあとも感じるし、それはぼくに通じるものもあって、まあだれが書いたにせよ読み物として面白いからべつにいいかなと個人的には思った。でもやっぱり実名でやったほうがよかったと思う。



 ネットでほんとにヒステリックに叩かれている。ぼくは酒鬼薔薇先生みたいな殺人鬼と一般人ってそんなに大差ないと思ってる。善良な市民のみなさまだって日々だれかを間接的に死においやってるという意味では殺人鬼と同じだ。小・中学生時代ぼくをいじめたやつらは、善良な市民となり正社員として仕事をして結婚して子供がいたりするわけだ。ぼくはいじめ体験のおかげで精神を病み社会復帰もだいぶ遅れたし、正直いつ自殺するかわからない。でもぼくをいじめたやつらは善良な市民として振舞っているんだよなあ。これってなんなんだろう。ひとひとりを社会的に殺しておいてすずしい顔してなんの罪悪感もなく生きている。
 毎日毎日ひとが自殺している。かれらは社会に殺されている。でもだれも責任を取らない。死に追いやっておきながら知らん顔をする。殺人鬼と善良な市民のちがいってなんなんだろう。明確な境界線なんてあるんだろうか。だれかを傷つけてもかれが死ななければ問題ないっていうのか。



 元フジテレビの女性アナウンサーがひとを轢き殺した事件があったと思うけど、あれなんか実際に殺人でしかないし、そういう意味は酒鬼薔薇先生と本質的に差なんてないとぼくは思ってしまうけどな。でも酒鬼薔薇先生は世間から叩かれ続け、女性アナウンサーはもう社会から忘れ去られているでしょ。この差はなんなんだろう。



 ぼくは基本的に人間がきらいなので、こうやって酒鬼薔薇先生を叩きまくってる世間の人間が憎くてしょうがない。お前らも同じだよってぼくは思う。いままでだれも傷つけないで生きてきたのか? お前らの言動のせいでだれかが社会的に死んだことはなかったのか。あるいは実際に死んでるかもしれないんだよ。



 ぼくはもちろん酒鬼薔薇先生もクズだと思うけど、善良な市民として振舞ってるたいへん多くのクズもたいしてかわらないと思う。



 この本を読めば酒鬼薔薇先生は「絶対悪」みたいな存在ではないってことはよくわかる。ぼくらふつうの人間と連続してる。ぼくは酒鬼薔薇先生がこの本で「もっともっと殺したい!」とか宣言してたら面白いなあと思っていたんだけど、実際にはそんなことはなかった。酒鬼薔薇先生は自分のやったことに真剣に向き合って、ほんとうに反省して後悔してるようだった。



 もちろん許されることはないだろうし、取り返しのつかないことってのはそういうことなのだけど、でも取り返しのつかないことって殺人だけではないと思う。すべてのものは取り返しがつかない。ぼくはいじめ体験によって一般的な社会参加を断たれたけれど、こうやっていまなんとか社会復帰できてるから、それは問題ないなんていえるんだろうか。あったはずの未来を奪われたという意味では同じなのだけど。ぼくは手取り月9万だよ。



 とにかく人間ってどうしようもないなあと思った。ネットでは日々自分が正義だと思い上がった人間が個人をリンチにかけてるし。酒鬼薔薇先生のような攻撃性ってだれにでもあると思う。酒鬼薔薇先生が社会復帰後に出会ったひとはいいひともたくさんいたようだけど、仕事をする上で数々のクズがいたのもまた現実の辛さというもので、そのクズを見る酒鬼薔薇先生の視線はとても示唆的だった。



 この本は多くのひとに読まれるべきだと思う。ひとを傷つけ、命をうばうってのがどういうことなのかがよくわかる。とても悲しい事件だったと思う。そうとしかいえない。とてもとても悲しい。
☆☆☆

広告を非表示にする