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フィギュアレビュー、本・漫画の感想など

ダニロ・キシュ『砂時計』

砂時計 (東欧の想像力 1)

砂時計 (東欧の想像力 1)

 ダニロ・キシュ『砂時計』のレビューです。
 この作品は『庭、灰』(1965)、『若き日の哀しみ』(1969)とあわせて「自伝的三部作」となっているらしい。『砂時計』は1972年のものらしいから三部作の最後。ワナビは読んだ方がいいけど、普通の小説読者は読まなくてもいいかもなあ。ストーリーが面白いっていう作品ではないです。
庭、灰/見えない都市 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集2)

庭、灰/見えない都市 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集2)

若き日の哀しみ (創元ライブラリ)

若き日の哀しみ (創元ライブラリ)

 文章自体は難しくないのだけど、構成のせいか、読んでいてなかなかつかみどころがない。とにかく読み進めるしかない。暗闇のなかを手探りで進んでいく感じ。
 構成は以下のようになってる。

プロローグ
旅の絵(I)
ある狂人の覚書(I)
予審(I)
ある狂人の覚書(II)
予審(II)
ある狂人の覚書(III)
旅の絵(II)
ある狂人の覚書(IV)
証人尋問(I)
予審(III)
旅の絵(III)
証人尋問(II)
旅の絵(IV)
予審(IV)
ある狂人の覚書(V)
手紙 または 目次

 最終章の「手紙 または 目次」がそれまで語られてきたことの全体像というか元ネタになっているという構成。
 冒頭からいい。

影の揺らめき。それは燃え盛ったかと思えば消え入りそうにしぼんでいくぎざぎざの炎のままに、天井と壁を近づけたり遠ざけたりしながら、物体の輪郭を崩し、立方体の表面を壊す。
(p.9)

 室内は暗闇で、ランプの炎が揺らいでいる。そんな始まり。ぼくらはこのイメージで読み始めることになる。ストーリーがどこにあるのかもよくわからず、ただ手探りで進むしかない。あるところで語られたことがほかのところで出てきたりして、だんだん語られているものが立体的になっていく。こんなことかと思うんだけど、そのこんなことのためにこれだけのことをやって語っている。死者の手紙によってそのひとの人生のある時期ある瞬間を再構築していく。それまで死の世界にあったものが生まれ直していく、暗闇のなかから、揺れる影や明滅する夢や幻のように、視点もさまざまなイメージの数々によって。
 ワナビにはおすすめです。



 あ、そうそう、Amazonの画像と実物は異なります。実物はこんな感じです↓

強制収容所で命を落とした男の手になる一通の手紙ーーその手紙の世界・時代を、多様な文体と語りの構成によって、男の息子・作家キシュが再創造する。

 



 あとついでに。訳者の解説みたいなの見つけました。読んでみるといいかもしれません。
『砂時計』 あるいは世界の書物: ダニロ・キシュ研究
☆☆☆