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スティーヴ・エリクソン『ルビコン・ビーチ』

ルビコン・ビーチ (ちくま文庫)

ルビコン・ビーチ (ちくま文庫)

 スティーヴ・エリクソンルビコン・ビーチ』の感想です。

幻覚的描写が次々に繰り広げられる圧倒的に魅力的な小説。空間のよじれの向こうに、もう一つの“アメリカ”が立ち現れる。第一部は仮釈放されて図書館で働くケール、第二部は南米のジャングルで生まれ育ったキャサリン、第三部は「もうひとつの数」の発見から物語は始まる。そしてどことも知れない場所へ。T.ピンチョン絶賛の著者の、代表作!

 



 エリクソンは大好きで小説は『ゼロヴィル』以外は読んでます。これもエリクソンワールド炸裂という感じですが、第3部で力尽きてる感じが多少ありますね。あまりにも安直でわかりやすすぎるような。意味不明な第1部を読み終え、第2部に入ると読んでいてはっとする瞬間が何度かあるんですが、第3部はいまいちかなあ。
 この『ルビコン・ビーチ』は第2作目ということで、第1作目の『彷徨う日々』と第3作目の『黒い時計の旅』にはさまれてますが、それらに比べるとちょっと物足りなさは感じます。色彩感覚に乏しいというか、めまいがするような描写があまりなく単調な印象を受けました。読んだ感じとしては『きみを夢みて』に近いかな。どちらも小さくまとまった良作といった印象ですが、『きみを夢みて』のほうが小説としておだやかかなあと。エリクソンの小説はプロットを説明するのがめんどくさいんですが、この『ルビコン・ビーチ』も説明が難しいです。とにかく閉じた論理で終わっていないので、何かを断言することが難しいです。切り口はいろいろあると思いますが、個人的には以下のあたりが印象に残ってます。

「最後の詩ではない。最後のその後に来る詩なんだ。必死で探している。だんだん近づいてきた。行き着けばそこはもう戻るに戻れなくなるのはわかっている。そのために家を失おうと、家族をなくそうと、一切を捨てても構わない。この詩を見つけるんだ」
(p.257)

そして次の瞬間には彼女の姿はなかった。浅黒い肌の裸の彼女は消えてしまった。線路のはるか下の黒い川へ落ちたのか……彼女を両手の中に感じ、彼女の脚がからまってくるのを感じ、しかも彼女の中の自分を感じたのに。彼女の姿はなかった。目を閉じてしまったのだろう。いや、違う。目を閉じたせいではない。一瞬、目をそらさなければならなかったのだ。ほんの一瞬だ。あの光はとても見ていられなかった。
(p.392)

 



 夢と幻覚とエコーによって三つの時空が交錯するんですが、それによって現実に揺さぶりがかけられます。象徴的な登場人物として盲人たちも出てきますし、第2部のリュウリンはキャサリンを直視できません。謎の女キャサリンは処女で、キャサリン的人物はその392ページで処女を失うんですが、絶対的な他者であるキャサリンとの完全な接触、同一化の瞬間は確認されないわけですよね。あと音楽や音が序盤からいろいろ出てきて、第1部には「ラジオ」も出てきます。ラジオは当然〈受信機〉なので象徴的なアイテムです。そしてこの小説は、

そしてそれは私に唄う。それは唄う。
(p.396)

で終わります。
 まあいろいろ解釈して語るのは楽しいですが、全体的にちょっと書きすぎかなあと感じました。構造は錯綜してるんですが、その場面ごとの文章はとても説明的でわかりやすすぎるので。
 エリクソン読むなら『彷徨う日々』『黒い時計の旅』がおすすめ。風変わりな人には『エクスタシーの湖』もおすすめしたいです。入手しやすいという意味では『Xのアーチ』も完成度が高いのでいいかもしれません。
☆☆